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後頭下筋群・翳風に2寸鍼を深く刺す治療をやっていますか??

説明

当鍼灸院の開業期間9年間で「たまにあったご質問」に回答するページです。

【類似の疑問、ご質問】

「鍼をもっと深く打ってくれませんか?」
「後頭下筋群に2寸鍼を使ってできるだけ深く打ってくれませんか?」(できますか?)
「翳風に2寸鍼を深く打てますか?」(マスターしてますか?)
「難聴耳鳴り治療の翳風(エイフウ)穴に2寸鍼を使った鍼治療を導入していますか?」

後頭下筋群 翳風に2寸鍼を使う深刺治療について当院の見解を回答します

ご質問の「後頭下筋群、翳風穴に2寸鍼を使って深刺し刺鍼」とは、二天堂鍼灸院の講座の旧ホームページ、北京堂鍼灸ホームページで公開中の「難聴耳鳴り治療に翳風ツボに2寸鍼を刺鍼する鍼治療法」のことだと思います。

頭頚部に「2寸鍼を使う」という特徴的な条件が付いている治療法のアピールは、北京堂鍼灸ホームページや二天堂の講習のホームページ以外の鍼灸院、流派からは発表されていませんので、間違いありません。なので、「後頭下筋群、翳風に2寸鍼を刺鍼する鍼治療法」に関するご質問は、二天堂鍼灸院の講座ホームページか、北京堂鍼灸ホームページ、または書籍が根拠になっているかと思います。

まずは、このご質問への回答をお伝えしますが、当院では後頭下筋群や翳風(頭頚部のツボ)へ鍼を深く刺鍼する治療は行っており、後頭下筋群や翳風に最大深度で鍼を刺入する技術を有しています。しかし、後頭下筋群や翳風など、頭頚椎部の治療に2寸(6センチメートル)もの長い鍼を使用することはほとんど滅多にありません。当院で翳風に鍼を打つ場合、1.6寸鍼(約5センチ)の鍼を使用します。

なぜかといいますと、ここからは少し専門的な話しになってしまいますが、2寸鍼は、長さが6センチメートルもある比較的長い鍼で、頚椎部や翳風に刺鍼するには必要以上に長く不適当だと考えるからです。

また、この「2寸鍼を使って後頭下筋群を治療する」「翳風に2寸鍼を刺鍼して難聴耳鳴りを治す」という治療法は、北京堂鍼灸や二天堂鍼灸院の講座メニューで発表されている「北京堂式」といわれる「マニュアル式鍼灸治療法」であり、「2寸鍼を使う」というそれ自体が特徴的な条件があるだけではなく、北京堂で弟子として修業された二天堂鍼灸院でも「誰でも効果が出せる、パターン化された北京堂式、たいていは3回で効果が出る(二天堂では10年程掲載)」ということで講習を開いて多数の生徒を集め指導しているほどに宣伝していますが、当院ではこの北京堂式の2寸鍼の深刺し刺鍼法をこれまでほとんどまったく(極一部例外あり*A)取り入れたことがないだけでなく、マニュアル的な刺鍼深度設定、適応症としての難聴耳鳴りの適応範囲(*)、翳風の使用範囲(*)頚椎症や内耳疾患の治療の際、北京堂式で強調されている「刺入深度をに最大化して治療すべき」との立場をとるものでもないからです。

つまり、当院で後頭下筋群や翳風に鍼を打つ場合は、患者さんの病態、体質を見て、ケースバイケース、あるいはその他いろいろの技のレパートリーの一つとして最大深度へ刺鍼する治療は基本としてはあるものの、「2寸鍼で深く刺鍼すればすぐに効果が現れる刺鍼法」のように「2寸鍼を指定してまで刺鍼技術をアピールする」とか、「実際にも2寸もの長い鍼を使うことはない」ということです。

なので、正直なところ、私の認識では「この長さの鍼を頚椎や頭頚部に使うことに何の意義があるのか?」とか、「この長さの鍼を頚椎部に使うことを定義する治療法の存在自体の是非」という、根本的な疑問すら持っているところであり、難聴や耳鳴りに限らず、「後頭下筋群への2寸刺鍼治療法を『頚椎部の刺鍼マニュアル』として設定できるような治療法として認めておらず、元々導入も一切行っていない」、ということであります。

ここでせっかくですから、「2寸鍼を使って後頭下筋群を治療する」「2寸鍼を翳風に刺鍼して難聴耳鳴りを治す」という治療法について深堀り説明をしていくことにします。

まず、「2寸鍼」とは、メートル換算で長さ 6センチメートルの鍼となります。当院の鍼治療で後頭下筋群に最大深度で鍼を打つ治療は、患者さんの治療ごとに必要に応じて「ケースバイケースで導入していますが、当院で後頭下筋群に鍼を最大深度で刺鍼する治療を行う場合、2寸(6センチ)鍼を使うことはなく、1寸6分(5センチ)鍼を使っています。

ここで、後頭下筋群についても少し説明を行います。

後頭下筋群というのは、後頭部の頭蓋骨と首の骨の間にある筋肉群の総称であります。メインとなる筋肉は、大後頭直筋、小後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋などです。筋群と一致する経穴名は、「瘂門、天柱、風池、完骨、翳風」で、「翳風」も含みます。(他にもありますが基本形だけ紹介,他は省略)

繰り返しになりますが、この部位の解剖学の立体像常識から言って、通常、1寸6分(5センチ)の鍼を使うことでで十分に鍼先を最大深度の筋層(1~3cm程度)に到達させることができますので、この部位にあえて2寸(6センチ)もの長い鍼を使う必要はほぼまったくありません。もちろん、(*A)ラガーマンなど、筋肉隆々で皮下脂肪付きの大柄な男性の頚椎症の治療で最大深度に鍼を打つ必要がある場合では当院でも迷わず2寸(6センチ)の鍼を使用するかも知れません。ただし、そのような症例はせいぜい年に数件あるかどうかの例外レベルの適応範囲であって、ホームページ上で2寸鍼を使うことをあえて宣言する程のことではないということです。

あとは、北京堂式の刺鍼法として「後頭下筋群刺鍼法」とか「大腰筋刺鍼」という、筋肉の名称を使っていますが、これ筋肉名自体は解剖学な名称であり、この名称を使うこと自体に何か特許のような権利が発生するものではありません。

それから、この部位への刺鍼の難易度についてですが、一般的に言って、「鍼灸師各人の個性として、立体感覚(3D)の認知能が欠如している場合」を除いて言ってしまえば、単純に鍼を深く打つこと自体は、それほど難易度が高いというものではありません。今の説明には語弊があったかも知れませんが、ここで私が言いたいことは、鍼を実際の患者さんに刺鍼することい関して、つまり、臨床では、他の要素もいろいろと考慮する必要があるわけで、それぞれに適切な判断とか、さじ加減というものが必要となりますので、むしろそちらの方が重要度が高く、高い技術力が求められますので、例えば、「私は半年の練習で鍼を安全に最大深度に刺せるようになった」=「私は特別な技能の保持者」という意味を持つわけではありません。なので、鍼を解剖学的に深く打つ技術をマスターできたというだけで「その鍼師の治療には必ず効果がある、」という、お墨付きがあるわけでもないということです。

とにかく、私が知るところで「2寸鍼を使って後頭下筋群を治療する」という主張は、二天堂鍼灸院と北京堂鍼灸以外では見たことがありませんし、中国でもそのような主張や臨床を見たことがありません。

以下は当方が所持する後頭下筋群の解剖学情報と関連参考資料の紹介です。
(当たり前ですが、解剖書は他にも多数所持しています/ アプリも)

■針刀治療 頚源性眩暈 四川科学技術出版社 P.50
鍼灸書の解剖理解
後頭下筋群の解剖写真掲載例

■後頸部 諸経穴への刺針に関する解剖学的考察/全日本鍼灸学会 雑誌 39巻 (1989年)
瘂門、天柱、風池、完骨、翳風について
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1981/39/2/39_2_195/_pdf
(論文にはご遺体の解剖写真があります。閲覧は自己責任でご注意ください。)

 

「難聴 耳鳴り治療の翳風(エイフウ)穴に2寸鍼を使用した刺鍼法」の導入について

次に、「翳風(エイフウ)穴に2寸鍼を使用した刺鍼法」の導入について」詳しく説明していきます。

まず、翳風(エイフウ)穴について少しだけ触れますが、翳風は耳鳴り難聴などの聴覚障害や顔面神経麻痺の治療穴として日本や中国教科書で認められている治療穴です。

鍼灸経穴

【 翳風の位置/針灸学 現代研究と応用 学苑出版社 】

それから、先述の通り、難聴や耳鳴りの治療に「2寸鍼(6センチ)を使用し、翳風に深く刺鍼する治療法」は、北京堂式の治療マニュアルになっていて、1998年に北京堂鍼灸ホームページ公開と同時に発表され、その後も淺野周氏の2011年の出版物(たにぐち書店)のなかでも紹介されています。また、二天堂鍼灸院では、2007年頃から弟子以外でも一般向けに講習*Bを開き、これを正式に伝授しています。
*B二天堂勉強会 [実技講座内容]:後頭下筋群を対象としており、より広範囲に2寸鍼を使用。/※翳風は後頭下筋群内にあるツボです)

以下にその一部をご紹介します

“私の経験では、以前の中国の嫁さんに教えてもらった翳風(えいふう)へ2寸ぐらいを直刺するのがもっとも効果があるようだ”
(原文まま/北京堂浅野HP 鍼灸師のための中国語講座※3 /2寸=6センチ)
http://pekindou.c.ooco.jp/tiryouhoukou1.htm

内弟子の中には、研修で何度も見ているはずなのに『翳風(えいふう)』に1寸6分(5センチ)を使うなどの勘違いしているようだ・・・
(原文まま/北京堂浅野HP, 中医学理論に基づいた北京堂式難聴治療ページ)
http://park1.aeonnet.ne.jp/~pekingdo/nantyou.htm

"鍼では耳鳴りならば、3回治療して効果がなければ、それ以上治療しても変わらないと思います。二寸鍼で、相当奥まで刺さないと効果がありません。うちの神戸弟子などは、耳鳴り治療を昔見ていたのですが、1.6寸の鍼と思いこんでいたので効果がありませんでした。二寸を奥まで入れなければ効果がありません。"・・・・・一般に耳鳴りや難聴、眩暈の治療では、耳の奥にズシーンと響くような感じがなければ効果がないと言われています。"
(原文まま/北京堂浅野HP/鍼灸への疑問Q&A-トップページ左カラム/文字数14708 )
http://pekindou.c.ooco.jp/qanda.htm

"騒音を聴き過ぎて起きた耳鳴も、よく治ります。"
(原文まま/北京堂浅野HP. 鍼灸師のための中国語講座※3/ 改行数5 文字数 308)
http://pekindou.c.ooco.jp/tiryouhoukou1.htm

"難聴や耳鳴りに関しては、三回治療して効果がなく、一度は好転したものの元に戻るケースでは、三回治療して効果がなければ、耳へのステロイド注射や高圧酸素室など別の治療を試したほうが賢明です。耳鳴りや難聴は、患者さんの半分の人には三回で効果があるのですが、三回治療しても変化がない場合、なんどやっても無駄なことがほとんどです。ですので、「鍼治療は三回やって効果を判定する」原則をお勧めします。
"(原文まま引用:北京堂レディースHP患者様からの質問あれこれ
http://www13.plala.or.jp/racyan/ (2011年以降に公開)
「北京堂レディースHP患者様からの質問あれこれ」ページ 引用2020年スクリーンショット

"鍼灸は、何回ぐらい治療すれば効果がありますか?
一般に三回ぐらいで効果が現れます。"
(原文まま/北京堂浅野HP 患者さんむけ鍼灸情報「患者さんのための鍼灸Q&A」質問4個目 
http://pekindou.c.ooco.jp/patientinf.htm )

"3回までに改善効果が無ければその治療は間違っています・・"
(神戸.二天堂鍼灸院旧ホームページ※1 )
旧URL http://www.geocities.jp/niten01/ 2019年までのURL

"これら上記の疾患に対して、内耳の代謝、頚部の緊張の改善を目的に鍼治療をします。鍼治療が適応する場合、少なくとも3回までには、改善の兆候が現れますので、それを目安に・・"
(原文まま/二天堂鍼灸院旧ホームページ/「参考症例/ 耳鳴り・難聴・めまいの鍼灸治療」 )
「参考症例/ 耳鳴り・難聴・めまいの鍼灸治療」ページ引用2019年スクリーンショット

"誰が打っても効く、それが北京堂鍼灸"
(原文まま/ 北京堂弟子の中野保氏 二天堂鍼灸院の旧「鍼灸実技講座」ページ
/ 2009~2018年頃まで表記を確認 )
二天堂鍼灸院の旧「鍼灸実技講座」ページ引用2018年スクリーンショット

"誰がやっても効果のある針灸(はりきゅう)治療を世に普及させる・・・"
(原文まま/ 北京堂弟子の中野保氏 二天堂鍼灸院の旧ホームページ(トップページ右カラム)1
/ 2009~2018年11月までの10年間表示を確認 )
旧URLhttp://www.geocities.jp/niten01/ 引用2010年スクリーンショット
旧URLhttp://www.geocities.jp/niten01/ 引用2017年スクリーンショット
旧URLhttp://www.geocities.jp/niten01/ リンクページ引用2017年スクリーンショット

"誰がやっても効果のある鍼灸治療を世に普及させる。その一心でこの講座を立ち上げました。半年間の集中講座(4時間×全12回)ですが、当講座を修了すれば、臨床家としての一歩を・・・"
(二天堂鍼灸院・炎の鍼灸師育成講座ほのしん・ごあいさつ/2011年掲載開始を確認 )
旧URL http://honoshin.sakura.ne.jp/shinkyu.html 引用2011年スクリーンショット

"これは耳たぶで隠れた翳風へ刺鍼します。たいがいは翳風だけへ刺鍼すれば2~3分で聞こえるようになりますが、ここは口を閉じた状態では非常に入りにくいのです。そこで翳風に5本ほど集中させて刺入します。そうすれば2寸のなかで1.6寸ぐらい入る鍼が何本かあります。"
(原文まま/浅野周著:鍼灸院開業マニュアル(たにぐち書店 2011年/ 難聴や耳鳴りの治療 p.96 )

以上が北京堂鍼灸ホームページ、書籍、二天堂鍼灸院ホームページから発信されている情報です。
(※スクリーンショットもあります)

当方よりまとめのひとこと
何といっても、この北京堂式マニュアル治療法の特色は、「2寸鍼が使用条件」として入っていること、たいていは「3回以内に効果が現れる」ことです。つまり、翳風の刺鍼は短い鍼を使うよりも「2寸の長い鍼を使用して鍼をより深く鍼を刺入することに効果の優位性がある」という主張になっていて、「即効性も非常に高い」という主張になっていることです。

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当院の評価と見解
これに対して当院の治療方針、見解を以下に述べていきます。

翳風の刺入深度については先述の通り、2寸鍼(6センチ)を使うことはありません。当院で翳風に鍼を打つ場合、1.6寸鍼(約5センチ)の鍼を使用します。しかし、その場合でも、必ずしも最大深度で鍼を刺入するとは限りません。

つまり、当院の治療方針(2009年開業時点から不変の)では、患者さんの病状、体質によっては、鍼の深度を加減しますので、翳風でもケースバイケース判断で、条件によって鍼の刺入深度は一定ではなく、1.6寸鍼(5センチ)の使用したとしても、鍼の刺入は5センチの半分、2.5センチしか刺入しない場合や、あるいはもっと短い鍼を使って「極浅い深度でしか翳風に刺鍼しない治療も有り得る」という立場です。その場合の、場合によっては、「あえて鍼の刺激を抑えるため、鍼の響きをできるだけ出さないようにする場合」もありますので、北京堂式のように一概に鍼の鍼感(響き)を求めるとも限りません。

(*北京堂系列 燕堂HPに「響きが無い浅い刺鍼の治療で当院に苦情が出ている」との苦情の報告/引用スクリーンショット)
https://www.dragontracers.com/pg501.html「北京堂式(浅野式)」の判別法)

次に、北京堂式の「翳風だけでも難聴・耳鳴りの効果がある」「翳風で難聴難聴を治す」という考え方についても当院では100%同意しておらず、翳風の使用については当院で独自に適宜判断となります。なので、当院では翳風にはまったく鍼を打たずに他の部位への刺鍼で内耳症状を治療(改善例あり)する場合があります。

もう一つは、北京堂では「難聴に鍼が有効」と宣言していますが、しかし、「難聴」と一言でいっても、難聴には様々な病態、原因、病名があり、北京堂や二天堂鍼灸院ホームページではこれら概念の言及は一切しておらず、北京堂鍼灸ホームページで「突発性難聴」という語句は、1ヵ所のみでしか記述がみられませんし、突発性難聴と他の難聴との区別や効果の違いなどの説明も一切行われていません。北京堂では「難聴」という単語一つだけで「難聴」を適応症に入れていますが、当院では加齢性難聴は不適応症としていますし、北京堂式では有効としている「音響性難聴」も不適応症としています。

他には、北京堂ホームページの難聴治療法の説明では、繰り返し、「3回以内で難聴の聴力が回復できた」などの即効性の説明が出ていて、北京堂レディースホームページでは、「三回治療して効果がなければ、耳へのステロイド注射や高圧酸素室など別の治療を試したほうが賢明です」との説明がみられますが、当院でこのような少数回で難聴が「完治した」と断言できるような難聴症例は、極一部症例)を除いて、これまで茨木院の9年間でほとんど確認したことがありません。ましてや、「たいていは3回やそこらで完治する、などとは断言できるものではない」と考えますので、「治療回数」についても北京堂の説明にはまったく同意していません。
症例:たいへん稀有な突発性難聴の口コミ症例/ 2012年9月23日ブログ)

後ついでにですが、これとは別に、当院の2012年2月公開のブログページでは、私がブログの文中で「翳風刺鍼に2寸鍼使用、刺鍼法に否定的な見解」を述べていましたために、これまでにこれを読んだ患者さん、または読者から「わきさか鍼灸院では難聴治療に翳風を使わない」、あるいは「脇坂は翳風に鍼を打つ技術が無い」などと解釈されていた可能性が考えられます。しかし、当ページでの説明でお分かりのように、実際のところ当院では「翳風への刺鍼」自体を全否定しているわけではなく、適宜導入していますので、今回当ページの公開、詳細説明によって、「当院の翳風治療の導入範囲についての考え方」を正しくご理解いただけたら、と思います。

以上が、北京堂鍼灸ホームページで公開の「難聴耳鳴り治療に翳風ツボに2寸鍼を刺鍼する鍼治療法」に対する当院導入の是非と総合評価の見解です。

2023年4月19日

 

「参考資料・文献」の紹介

この項目では、日本や中国の教科書、その他文献記載の翳風穴の刺鍼深度、解剖学情報をご紹介し、翳風の最大深度で刺鍼する際のリスク評価、「適切な最大刺入深度とはいかなるものか?」、翳風の安全な刺入深度について当院の見解を述べていきます。

●翳風部位の解剖学

はじめに、教科書記載の翳風部位の解剖学についてご説明します。

日本の教科書「はりきゅう実技・基礎編」( 医道の日本社 )の身体各部の刺鍼 P.68 翳風の局所解剖では、浅層に耳下腺、深層に顎二腹筋腹があり、その下方に顔面神経本幹があることが記載されています。

中国の教科書「腧穴学」(上海科学技術出版社 P.112 翳風) や「針灸学」(上海科学技術出版社 P.89)でも、浅層に耳下腺、大耳介神経、最深部に顔面神経本幹があるとの記載があります。

次は中国の専門書記載の翳風部位の解剖学をご紹介します。

中国の別の専門書「中医応用?穴解剖学」(上海科学技術出版社 P.136 翳風)では、解剖学の階層的な詳細説明が記載されていて、体表から皮下層、耳下腺、更に深層には顔面神経、その奥には顎二腹筋があり、また付近には外頚動静脈があるとのことで、「翳風に鍼を深く打つ場合はかなり注意を要す」としています。

【全身経穴応用解剖図譜(英文訳付)/上海中医薬大学技術出版社 】の人体解剖の実写スライス
鍼灸書の解剖理解

▲翳風と同じ水平の「翳明」の解剖断面写真

 

●教科書記載の翳風穴の刺入法(深度,方向)

本棚の鍼灸書

■日本の教科書
「はりきゅう実技・基礎編」 ( 医道の日本2013年12刷 )
“内上方 対側の眼方向 (斜刺) 1-2寸”

■中国の教科書
「腧穴学」(上海科学技術出版社 P.112 翳風)
“直刺 0.8-1.2寸”

「針灸学」 (上海科学技術出版社) P.90 翳風
“斜刺 内下方 2寸”、“直刺 0.8-1.2寸”

※注釈1: 日本の深度1寸は(30mm )、中国の深度の1寸は (25mm)です
※注釈2: 日本の教科書記載の翳風の刺鍼法は直刺になっておらず、前上向きの斜刺1~2寸になっていますので、中国基準の直刺の深度とまったく同等に評価することはできません。

 

 

●教科書以外の資料の翳風穴の刺入法(深度,方向)

次は極一部ですが、教科書以外の書籍からも翳風穴の情報をお伝えしたいと思います。

参考資料

【はり入門(豪鍼)】

■はり入門(豪鍼)/森 秀太郎著(医道の日本社 1971年 翳風 P.44 )の翳風穴の主治は、難聴などの耳疾患と顔面神経麻痺、下歯痛になっており、刺入法深度は、直刺 15mm~40mm(0.5-1.3寸)になっています。

 

■「経穴マップ(医歯薬出版株式会社 初版 2004年/ 翳風 P.69-70)」の翳風の項目 P.69には、「翳風の翳は羽扇子で耳を例えた文字で風は風邪の風で風邪(感冒)の侵入を防ぎ、耳疾患を治療する要穴として名付けられた」との古典的解説があります。ちなみに翳風穴は、最も古くは3世紀の中国の古典「鍼灸甲乙経」(3,7,12巻)に記録されています。

経穴の参考文献

主治は聴覚障害や顔面神経麻痺、顎関節障害、頚部こわばり、片麻痺で、刺法は“直刺0.5-1寸”となっています。

ちなみに「経穴マップ」は、私が学生一年時に購入した、解剖図解を多用したB5大判の書籍で、日中の経穴の取穴(ツボの位置)の知識全般と経穴の体表位置、解剖学知識とを一致させることができ、経穴と経絡を網羅的に勉強ができる非常に役に立つ参考書です。学生当時のクラスメイトの大多数がこの本を所有していました。

■慎刺穴位的解剖与安全操作 DVD
(人民衛生音像出版社 出版日期: 2006年07月)

経穴の参考文献

【経穴マップ/
2004年学生時購入】

鍼灸の解剖理解

 

 

●1寸の基準について

ここで1寸の長さを説明していきます。

鍼の刺入深度の1寸は、メートル法換算で30mm(3センチ)です。これは日本の公式値で、鍼の長さの規格もこれと同じです。つまり、1寸鍼なら長さが3センチメートルの鍼になります。

日本の教科書記載の翳風の刺鍼では、“内上方 対側の眼方向 (斜刺)1-2寸”になっていますので、深度の目安は「3~6センチ」となり、最大深度なら「6センチ」となります。

ここで少し日本の教科書記載の翳風の深度について個人的見解を述べさせてもらうことにします。なぜなら、このすぐ後の説明(*C北京堂式翳風について)をお読みになればお分かりになるかと思いますが、ここをスルーすると後の説明を理解してもらうことができないと考えたからです。そこであえてこれについての当方の見解を加えることにしました。

日本の教科書記載の翳風の深度は、斜刺で「1-2寸(3~6センチ)」になっていて、最大値が2寸(6センチ)になっていますが、私の理解においてこの翳風の深度(最大値2寸)が妥当かどうか、若干??疑問?に感じています。古典(*D)の解釈が原因なのかはっきりしませんが、おそらく議論の余地があるように思われます(もしかしたら、パンドラの、、、ヤブ蛇かも知れませんが)。

それから、繰り返しになりますが中国の教科書の翳風の刺鍼はすべて直刺になっています。日本の教科書記載の翳風の刺鍼法は直刺になっておらず、前上向きの斜刺1~2寸になっていますので、中国の直刺の深度とまったく同等に評価することはできません。

すなわち、鍼を斜めに刺す場合、真っ直ぐ刺すよりも深度のリーチ(距離)が短くなりますので、その分の距離的変化への理解が必要となります。それとは別にもちろん直刺と斜刺とでは方向が違うわけですから、鍼先が到達する解剖部位が同じではありません。

どちらにしても、当院で翳風に最大深度で鍼を打つ場合なら、日本規格の1寸6分(5センチ)の鍼で直刺で1センチの余白を残して4センチ刺入で十分に最大深度に鍼が届くと理解しています。

またの繰り返しになりますが、ここで勘違いしないでほしいことは、北京堂式マニュアル(*C)では、翳風に「1寸ではなく2寸鍼(6センチ)を使う」ということが条件(*C)になっており、更には「2寸鍼で5cm入れる」とか「翳風へ多数鍼刺入の推薦」「翳風だけでたいてい聴力がすぐに回復する」などと、北京堂ホームページの多数ヵ所や開業12年後の浅野氏の著作物(鍼灸院開業マニュアル/たにぐち書店)で説明していて、トータル的にも「翳風には鍼をできるだけ深く刺入することが重要で効果的」という印象を強固に与える内容になっているということです(*C)。

そして日本の教科書記載の翳風の最大深度は「2寸」ですが、説明文では「1~2寸」と幅があり、「2寸だけ」を推奨しているわけではありません。それに直刺ではなく「内上方 対側の眼方向の斜刺」であり、また北京堂ホームページの説明では、『日本の教科書の深度』を根拠にして『2寸鍼使用』の主張が行われている訳ではありません。

とにかくそういったことが有る無しに関わらず、当院では翳風や後頭下筋群に安全に最大深度で鍼を打つ技術を有しており、当院で翳風に最大深度で鍼を打つ場合は、「1寸6分(5センチ)」の鍼を使用し、4センチ以上深く刺鍼することは絶対にない、ということです。よって、翳風に2寸鍼を使用することは一切ありません。

そして、翳風の刺鍼に限らず、鍼を深く刺鍼する治療でもっとも重要なことは「患者さんの体格(筋量,骨格)の個人差を正確に(現実実効性を踏まえ極力客観的にという意味)把握すること」だと考えます。

当院で刺鍼深度を最大深度にする場合は、体格骨格筋量を患者さんごとに正確に評価できる、当院独自開発のアライメントチェック、アセスメントを行い、より正確な立体イメージの獲得を行っています。

2023年4月20日

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古典『鍼灸甲乙経』における翳風の深度と1寸の考察

(*D) 古典

翳風(えいふう)の刺鍼深度の件でいろいろと調べていくうちに翳風穴が記載されている最も古い鍼灸書が「鍼灸甲乙経」ということを知りました。当ページのテーマは「翳風」ですから、この項では、「鍼灸甲乙経」(皇甫? )に記載されている「翳風の深度」の紹介と「1寸の基準」について考察していきます。


鍼灸甲乙経

鍼灸甲乙経は3世紀前後の中国で書かれた鍼灸の専門書で、300以上の経穴、経絡の位置、経穴の主治、禁忌、治療情報、鍼の深度、お灸の量などの情報がまとめられていて、現代でも多くの内容が基礎教科全般に採用されています。

この鍼灸甲乙経の日本への正確な伝来時期は6世紀説と言われており、大宝律令(701年)では医生の必読書に指定されていたそうです((索引〔コ〕)。

「鍼灸甲乙経」記載の翳風の深度

翳風の深度は「鍼灸甲乙経 第三巻」に記載があります。

第三巻
 “翳?,在耳后陷者中,按之引耳中,手、足少?之会,刺入四分,灸三壮。”
引用文中に「刺入四分」とあり、「翳風は0.4寸刺入可」という意味です。(0.4寸=1センチ)

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「鍼灸甲乙経」記載の翳風の深度と「現代鍼灸」の翳風の深度

「古典と現代の刺鍼深度」を考察してみましたので、以下にご紹介します。

古典の「鍼灸甲乙経」の翳風の深度は0.4寸、現代の「日本の教科書」の翳風は、斜刺で2寸、中国は、直刺で1.2寸が標準の最大深度になっています。

「鍼灸甲乙経」の翳風の刺鍼深度の最大は、「0.4寸」ですが、現代の教科書記載の最大深度は、甲乙経と比較してかなり深度が増えています。他の経穴も全部比較したわけではありませんが、「鍼灸甲乙経」記載の刺鍼深度と、現代の刺鍼深度には、かなり差があります。

深度が増したのはこれはおそらく、近代以降、西洋から解剖学知識が中国や日本に輸入され、刺鍼深度の安全性が解剖学的に確認できたからだと思います。

あとはこれに関連して、日本と中国とで、鍼の長さや深度基準の「1寸が同じでないこと」が少しひっかります。ただし、日中どちらも教科書の記載の深度ですので、安全性を考慮した設定になっているわけで、設定深度の最大値そのものを目いっぱい最大に設定しているわけでは無く、両者の差は誤差の範疇として余裕をもってみることができるレベル、かと思います。例えば、自動車の速度基準なら、ドイツのアウトバーンは別次元ですが、日本の高速道路の法定最高速度は100kmで、この制限速度の時速100キロは、円滑で事故が起きるリスクが無いギリギリの最高速度として設定されているうわけでなく、ある程度の余裕を持たせて設定されているかと思います。つまり、日本の高速道路上で「時速100キロ」を少しでも超えると「いきなり多くのドライバーが事故が起こすわけではない、」ということです。

これとはまた別の視点での考察ですが、もしかしたら今の1寸の基準は、鍼灸の近代化の際、誰かが古典の「1寸」の解釈を、便宜上「メートル法」に換算しやすい長さに設定し直した結果、今の基準が生まれたのかも知れません。これはまったくの憶測にすぎませんので、、、間違っていたらすみません。あれこれ調べているうちに、勝手に想像が働いてしまっていただけです。。。

更に妄想は続きますが、実際の古代の1寸は、「実はもっと短かった可能性もあるのではないか?」とも思ってしまいます。

1寸の基準が時代や場所によって多少ズレが出てしまうことは便宜上で変更されたり設定されることは特段に珍しいことではないのかも知れません。。

例えば、インチ(inch)は、表記としてアメリカとイギリスとでまったく同じですが、実寸はアメリカとイギリスとで少し異なります。畳も江戸間と京間があります。先述の通り、現代の1寸の基準は、中国の1寸は「25mm」で、「日本式は「30mm」で、若干の違いがある程ですが、甲乙経を編纂した3世紀以前の人たちが記述した1寸の実寸が、その後何らかの理由で変化したとしても何ら不思議なことではないのかも知れません。

更に例えば、鍼灸には経穴を特定(取穴)する際に用いる「骨度法」というものがありますが、この「骨度法」は、個々の人体の特定部位を基準にして、その人それぞれの骨格の太い細い、関節間の長短の比例をみて経穴の位置を特定する技術ですが、その指標の一つである、手の親指の幅も「寸」という表現で指の幅を数値化し、それを骨度法の基準にしています。しかし、親指の幅は平均的に「25~30mm」以上もありませんので、鍼サイズの規格の寸尺や鍼の深度の1寸(1寸=25~30mm)とは同じではありません。ややこしいことですが、、。

そこで、もしかしたら、古代の刺鍼深度の1寸は、親指の幅、すなわち骨度法の1寸を同等レベルに扱っていたのではないか、またはそれに近い数値が1寸であったのではないか、と思ったりしてしまいます。

もちろんこれにも根拠がなく、まったくの想像、こじつけです。なので、この考えをこの先も誰か他に向かって主張し続けるつもりはまったくありませんし、それにまた、何か古典の曖昧さをネタをあげつらって「やらせのオリジナル仮説や反論」を展開して商売に結び付けようなどの下心もありません。そのため、これを読んでまったく同意できなくても、どうか大目に見てやってください。。

あとちなみに、「鍼灸甲乙経」記載の最大深度は2.5寸です。指定ヵ所は多くはないです。

ということで、私はこれ以外にも、中国語でも、ネットで古典や骨度法をいろいろと検索して調べてみましたが、古典と現代の刺鍼深度の差異や変化の経緯についての「明確な答え」にはたどり着くことができませんでした。何か見落としがあるのかも知れませんが、当ページ公開時点でははっきり理解できてない状態のままです。

しかしながら、よく考えてみると、一般の鍼灸師が「古典記載の刺鍼深度を知ること」とか、「古典記載の深度に誤謬があるかどうかとかを知ること」にあまり大きな意味はなく、何か特別な理由でもない限り、「古典をあれこれ読み込む必要は無いのではないか」と考えるようになりました。なぜなら、鍼灸の教科書には、既に引用形式で古典に記載されている重要箇所の説明の現代語訳が載っていますし、中国の公式教科書では、特に古典の引用記載が多く、複数の古典の両論併記も掲載されていて、古典で不正確とか、明らかに誤っているとか、重要でない部分は教科書には載らずに、あらかじめ削除されており、おそらくたいていの古典知識は、教科書が出版される時点で「古典ベースの現代中医学の知識」としてまとめあげられているからです。古典の知識は、教科書(中国の教科書の訳本もある)から得るので十分かと思います。

 


以下に、鍼灸甲乙経の「翳風の主治効能」と「翳風 掲載3ヵ所」のうちのひとつをご紹介します。

鍼灸甲乙経 第十二巻

口僻不正,失欠口不开,翳风主之
耳鸣,百会及颔厌、颅息、天窗、大陵、偏历、前谷、后溪皆主之。耳痛聋鸣,上关主之,刺不可深。耳聋鸣,下关及阳溪、关冲、腋门,阳谷主之。耳聋鸣,头颔痛,耳门主之。头重,颔痛,引耳中憹憹嘈嘈,和窌主之。聋,耳中癫溲若风,听会主之。耳聋填填如无闻,憹憹嘈嘈若蝉鸣,頞颊鸣,听宫主之。下颊取之,譬如破声,刺此(即《九卷》所谓发蒙者)。聋,翳风及会宗、下关主之。耳聋无闻,天窗主之。耳聋,嘈嘈无所闻,天容主之。耳鸣无闻,肩贞及完骨主之。耳中生风,耳鸣耳聋时不闻,商阳主之。聋,耳中不通,合谷主之。耳聋,两颞颥痛,中渚主之。耳熇熇浑浑无所闻,外关主之。卒气聋,四渎主之。

上から要約的に翻訳してみますと、口が歪んでしまうほどに口に力が入って開けにくくなった症状には翳風が主治穴となる。

次は「耳鳴り」ですが、後に経穴の名前がずらりと並んでいます。頭部(頭頂、側頭部)頚部、前腕部、手掌部の経穴名があります。経絡は一つだけに絞られているわけではないようです。

その次は「耳痛を伴う難聴耳鳴り、側頭部痛」、耳門穴を主治穴とするが深く刺すな

頭重、側頭部痛、激しい耳鳴り、側頭部や頬部の経穴名、肩貞、頚部の完骨があります。

難聴に翳風と会宗、下関、頚部の天窓、天容を使う。指先の商陽、耳閉塞に合谷がよい。手にある中渚、外関。眩暈難聴に四瀆。

翳風の下には顔面神経、リンパ節が走行していますので、上記の症状の治療穴として挙げられていることは合理的でまったく出鱈目で意味が通じないようなものではありません。翳風の他の経穴は、患部局所だけでなく、前腕手掌の経穴も併用されています。下肢の経穴は出ていません。

当院での、突発性難聴、耳鳴り、メニエル症候群、耳管機能不全など、内耳疾患の鍼治療では、耳の周囲の経穴や頚椎部だけでなく、側頭部や手首辺りにある経穴をよく併用しています。

 


参考資料

骨度法の実測による研究 第2報
柴 田 恭 子 / 沢 田 一 江 / 所 昌子 / 西 村 紹 子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1955/13/2/13_2_17/_pdf

『鍼灸甲乙経』における鍼刺入深度から経穴の本態を探 る試み
前 山 文 子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1981/40/3/40_3_306/_pdf/-char/ja

山崎宗運の経穴学について
『釈骨』と「骨度折量法尺式」を中心に―
加 畑 聡 子
http://jsmh.umin.jp/journal/64-4/64-4_gencho_1.pdf


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鍼灸文献

 

2023年4月20日

 

 

 

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